いまさら聞けない! NFPA基本の基本 【第5回】NFPA 2018年版改訂ポイント|今までのモータ用動力線が使えなくなる!?

2019/06/28

  • LAPP

砂川 裕樹

サーボモータのケーブルは、熱硬化性樹脂の絶縁体で、リステッドの認証が必要

いまさら聞けない! NFPA基本の基本 シリーズ
【第1回】NFPA70とNFPA79の違い。勧告なのに、なぜ遵守する必要があるの?
【第2回】NFPA70とNFPA79は過去にどう改訂された? NFPA79の2007年改定で日本が騒然となった理由
【第3回】NFPA79の2007年の改定は茨の道? またもや思わぬ弊害が発覚!
【第4回】大手自動車メーカーで起きたNFPA70に関する重大なトラブルとは?

前回は、工場や建屋内におけるNFPA70のポイントと、 ある大手自動車メーカーで起きた重大なトラブルについて紹介しました。お客様はケーブルをコスト面からみて、心情的に安い製品を選ぼうとする傾向が強いかもしれません。

しかし、ケーブル1本をとっても、非常に奥が深く侮れません。品質の優れたものを選ばないと、あとで付帯設備や機械設計をやり直すことになりかねません。最悪の場合は訴訟問題に発展するかもしれません。そういうリスクを避けるためにも、できるだけ良いケーブルの選定が求められることを、前回の事例でご理解いただけたと思います。

さて今回からは、いよいよ最新情報について説明したいと思います。これまでのコラムでは、2012年までのNFPA79とNFPA70の大きな改定について話をしてきましたが、実はさらに2018年にもNFPA79で改定が加わりました。

サーボモータやインダクションモータを動作させるには、サーボアンプ/ドライブやインバータから動力線を通じて電力を供給する必要があります。最新の改定では、その動力線について言及した、第4章 4.4.2.8項の「電力変換装置からの電源回路」という規定が追加されました。

※注意:電力変換設備とはサーボアンプ/ドライブやインバータを指します。

具体的な内容は、

「可変速駆動システムの一部として使用される電力変換装置(サーボドライブやインバータ)から給電される電線や機材は、リステッド認証を伴ったRHH、RHW、RHW-2、XHH、XHHW、XHHW-2 の印のあるケーブルもしくは電力変換装置製造者の説明書に基づき選択されなければなりません。」

ということです。

今回の改定の肝は、ケーブルの絶縁体素材の要求レベルが高くなったことです。
絶縁体素材には樹脂が使われていますが、その樹脂も大別すると2つに分けられます。
1つは熱が高くなると溶ける「熱可塑性樹脂」です。もう1つは熱によって硬くなる「熱硬化性樹脂」です。

簡単にいうと、これまでAWMケーブルで広く用いられていた「PVC」や「THHN」など熱可塑性樹脂の絶縁体のケーブルが使えなくなりました。
今後はサーボアンプなどに使うケーブルについては、熱硬化性樹脂の絶縁体で、かつ上記に記載のリステッドの認証品が必要になります。

気になるRHH、RHW、RHW-2、XHH、XHHW、XHHW-2の意味は下記のとおりです。これらの絶縁体素材はUL44において熱硬化性樹脂と定義されております。

・RHH (Rubber High Heat resistant) - 熱硬化性。90℃の乾いた場所。
・RHW (Rubber Heat and Water resistant) - 耐湿熱硬化性。75℃の乾いた場所及び湿った場所。
・RHW-2 - 耐湿熱硬化性。90℃の乾いた場所及び湿った場所。
・XHH (Crosslinked Polyethylene High Heat resistant) - 熱硬化性。90℃の乾いた場所。
・XHHW (Crosslinked Polyethylene High Heat and Waterresistant) - 耐湿熱硬化性。90℃の乾いた場所。75℃の湿った場所。
・XHHW-2 - 耐湿熱硬化性。90℃の乾いた場所及び湿った場所


NFPA79でサーボモータ関連の動力ケーブルの規定が加わった理由

では、なぜ2018年のNFPA79改定において、サーボモータ関連で動力ケーブルに関する規定が加わったのでしょうか?
もちろん今回の改訂の目的もやはり安全性を高めることにあり、PWM(パルス幅変調)制御によって生じるサージに耐えられない熱可塑性樹脂を極力減らすことによってそれを達成しようという狙いになります。

もう少々詳しく解説していきましょう。

まずは、サーボモータの速度などを制御するサーボアンプやインバータの仕組みについて知る必要があります。
サーボアンプもインバータも基本的な原理は同様です。AC(サーボ)モータの速度は、交流の周波数を変えることによって可変することができます。周波数が高くなれば、モータ内部にある複数のステータ(固定子)で作られる回転磁場が速くなり、それに追従する形でモータのロータ(回転子)が回っていきます【★写真1】。

 


【★図1】ACサーボモータの典型的な構造。モータ内部にある複数のステータ(固定子)で回転磁場が作られ、
それに追従する形でモータのロータ(回転子)が回る。周波数が高くなると回転磁場が速くなり、
モータの回転も速くなる。逆に周波数が低くなると回転磁場が遅くなり、モータの回転も落ちる。

 

サーボアンプやインバータの内部構成は、コンバータ回路とインバータ回路に分けられます【★写真2】。まずモータの速度を変えるために、入力の交流(米国は60Hz、日本は50Hz/60Hz )を、整流器を使って直流に変換します。このとき直流を実効値で表現すると入力電圧の√2倍(1.414倍)になるため、たとえば動力源が交流460Vならば直流650Vに変換されます。


【★図2】サーボアンプやインバータの基本構成。整流器で交流を直流に変換する「コンバータ回路」と、
PWMで直流を疑似的な交流に戻す「インバータ回路」に分けられる。



次に、変換された直流をインバータ部で再び交流に戻します。この時の交流の周波数は、モータ速度を制御するために、PWM(パルス幅変調)回路によって、任意に調整できるようになっています。PWMについては、【★写真3】のように、蛇口をひねる時間を調整し、風呂桶に水をためたり、流したりするイメージを想像するとわかりやすいでしょう。
 

【★図3】PWM(パルス幅変調)のイメージ。図のように、風呂桶に水をためるイメージを思い浮かべると分かりやすい。
蛇口をひねる時間を調整し、風呂桶に水をためたり、流したりすることで、疑似正弦波をつくる。


回路的には、IGBTなどのスイッチング素子を使い、短冊状にした矩形波のONとOFFの比率(DUTY比と呼びます)を変えることで、疑似的な交流を作り出します。この時、PWMのキャリア周波数を約2kHzとすると、矩形波が1秒間に2万個ぶん発生し、断続的にオンとオフが繰り返されます。

一秒間に直流650Vが2万回もオンオフを繰り返します。電気に詳しい皆様であればどれだけ恐ろしいノイズ源となってしまうかご理解いただけると思います。
キャリア周波数が高いほど、より正弦波(交流)に近い波形になるのですが、逆に大きなノイズ発生源にもなってしまうのです。


サージや静電浮遊容量に影響しない高品質なケーブルが重要

モータに電力を供給するケーブルには、抵抗のほかに、L(リアクタンス)やC(キャパシタンス)を含んでおり(これらすべてを合成した抵抗をインピーダンスと呼ぶ)、前述のような断続的なスイッチングが原因となり、矩形波に「サージ」と呼ばれるノイズが乗ってしまう現象が発生します。

サージは正常電圧の2倍以上の高電圧成分を含むため、モータや動力ケーブルがダメージを受けることがあります【★写真4】。もしケーブルの絶縁部に穴が開くと、電流が編組ケーブルに流れて熱が発生し、ブレードが燃焼してしまいます。 


【★図4】インバータやサーボアンプから出力された矩形波(疑似正弦波)に、
正常電圧の2倍以上のサージが乗ってしまう。これがモータや動力ケーブルにダメージを与える。


もう1つの問題は、PVC電線の場合、PVCの誘電特性により、ケーブル静電容量が大きくなってしまい、充電電流が流れ込んでしまいます。モータの動力は大電流ですので、その大電流が流れることによって、絶縁体そのものが目に見えないコンデンサの役割を果たし、電気を溜めてしまいます(静電浮遊容量)。この影響によりコロナ放電や漏れ電流が生じサーボアンプやインバータに逆流し、内部回路を壊したり、動くべきタイミングでないときにモータを誤動作させる原因になります。
これらの問題は特に、ケーブルが長尺になったときや、湿った環境の時に起こりやすくなります。

また、熱可塑性樹脂のPVCは短絡によって生じる熱にさらされることで、溶けたり変形して大きな問題を引き起こす可能性もあります。

そこで、絶縁体に電気を溜めこまず、耐久性、耐食性、耐電食性に優れた材質のケーブルを選ぶ必要があります。たとえば「架橋ポリエチレン」(XLPE※)を絶縁体に使うと、長いケーブルでも逆流する電流を最小限にとどめてくれます。この架橋ポリエチレンは、熱可塑性の鎖状構造ポリエチレン分子を部分的に結合させ、熱硬化性プラスチックのような立体の網目構造にして、耐熱性を高めたものです【★写真5】。

※XLPE (Cross Linked Polyethylene) - 架橋ポリエチレン、熱硬化性樹脂の一種
 

【★図5】熱硬化性プラスチックのような立体の網目構造で、耐熱性を高めた架橋ポリエチレン。
可塑性の鎖状構造ポリエチレン分子を橋を架けるように部分的に結合させる。


そこで結論として、サーボアンプとサーボモータ間には、絶縁体に架橋ポリエチレンなど熱硬化性樹脂を採用し、リステッド認証を取った動力ケーブルを使うと前述のような心配がなくなり、より安全となるということが今回の改訂の狙いとなります。


長くなりましたので、今回はここまで。次回は、このような条件を満たす具体的な動力ケーブルについて、詳しく紹介したいと思います。

★関連製品
ULリスティング ケーブル→https://www.kmecs-automation.jp/standard/002/cable/
ULレコグニション ケーブル→https://www.kmecs-automation.jp/standard/019/cable/


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砂川 裕樹プロダクトマネージャー

Murrelektronikのエキスパートになるべく奮闘しています。
お客様の問題点の解決や要望に応えられるよう日々勉強中です。
学生時代から鹿島アントラーズの熱狂的ファンでチームが勝つべく毎週全力応援。
時には残念な結果に終わることもありますが、敗戦をお客様の機械配線のご相談に引きずらないようオンオフの切り替えをしっかりしております。

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