アブソリュート方式ロータリーエンコーダの基礎知識と選定ガイド|磁気式で課題解決するWachendorffの次世代技術
2026/03/30
- Wachendorff
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伊藤 慎一
産業用オートメーションの進化に伴い、位置検出にはかつてない精度と信頼性が求められています。この課題を解決するキーデバイスが「ロータリーエンコーダ」です。なかでも、電源遮断後も絶対位置を維持できる「アブソリュートエンコーダ」は、システムのダウンタイム短縮と効率化を実現するソリューションとして大きな注目を集めています。
本記事では、アブソリュートエンコーダの仕組みといった基礎知識を整理しつつ、過酷な環境下でも安定した性能を発揮する「磁気式エンコーダ」の優位性について解説します。あわせて、ドイツの革新的メーカー「Wachendorff(ヴァッヘンドルフ)社」が提供するバッテリーレス・ギアレス技術、そして実際の現場での課題解決事例までを詳しく解説します。
【目次】
アブソリュートエンコーダの仕組みとは? インクリメンタルとの違い
シングルターンとマルチターンの詳細比較
ー【深堀り】マルチターンの「回転数カウント」はどうやってる?
Wachendorff製品による課題解決の実績
ー事例①:屋外クレーン・重機の昇降制御
ー事例②:AGV(無人搬送車)の操舵・駆動ユニット
ー事例③:風力発電のピッチ制御(ブレード角度調節)
アブソリュート方式を革新するWachendorff独自のコアテクノロジー
シャフト形状と検出方式の選定
出力インターフェイスと「ユニバーサル産業イーサネット」
他社製品との比較表
Wachendorff 製品仕様・選定ガイド
■ 製品チラシ
アブソリュートエンコーダの仕組みとは? インクリメンタルとの違い
エンコーダには大きく分けて「インクリメンタル方式」と「アブソリュート方式」があります。前回の「堅牢な標準産業用インクリメンタル方式ロータリーエンコーダとは」でも解説していますが、ここではアブソリュート方式との比較として、それぞれの特性を簡単におさらいしておきましょう。
インクリメンタル方式
回転量に応じたパルス出力を行う方式です。電源遮断時に位置情報がリセットされる特性を持つため、起動時には「原点復帰(ホーミング)」が必要となります。(※インクリメンタルエンコーダの詳細は[前回の記事]をあわせてご覧ください)
アブソリュート方式
回転軸の角度ごとに固有のコード(絶対番地)を割り当てています。電源を切っても現在位置を保持し続けるため、原点復帰が不要で、システム復旧が迅速に行えます。
単なるパルスの積み上げ(相対変化)で位置を測るインクリメンタル方式に対し、回転角ごとに一意のID(絶対番地)を即座に読み取るのがアブソリュート方式の最大の違いです。
シングルターンとマルチターンの詳細比較
アブソリュートエンコーダを検討される際、「シングルターン」や「マルチターン」といった言葉を耳にされる方も多いのではないでしょうか。アブソリュートエンコーダは、測定範囲によって2つのタイプに分類されます。
シングルターン(単回転)
原理:1回転(0~360度)の範囲内での絶対位置を検出します。1回転を超えると、値は再び0に戻ります。
メリット:16bit(65,536分割)という極めて高い分解能を誇り、1回転以内の微細な角度制御に威力を発揮します。完全ギアレス構造による高い信頼性を維持しつつ、外部ギア比を用いた多軸・連結システムにおいても、その圧倒的な情報量により極めて正確な位置決めを可能にします。
マルチターン(多回転)
原理:1回転内の精密な角度データに加え、回転数(累積値)を非接触でカウント・保持します。
メリット:コンベア、ボールねじ、クレーンの巻上げ機など、1回転を超えるストロークを持つ機構に不可欠です。内部に減速ギアやバックアップ電池を持たないため、長寿命かつメンテナンスフリー。電源遮断中に軸が動いても、再通電時に即座に絶対位置(回転数+角度)を出力できるため、原点復帰動作が不要になり、システムの安全性と稼働率が大幅に向上します。

【深堀り】マルチターンの「回転数カウント」はどうやってる?
マルチターンには、回転数を数えるための「仕組み」が2種類あります。Wachendorff社が採用する「ウィーガンド式(EnDra®)」は、図にあるような「物理的な歯車」や「バックアップ電池」を一切必要としない、従来の課題を解決した革新的な方式です。
|
比較項目 |
歯車式(メカニカルギア) |
バッテリー式(電子式) |
ウィーガンド式(EnDra®) |
|
主な検出原理 |
光学式 / 磁気式 |
磁気式 |
磁気式(自己発電) |
|
多回転の保持 |
減速ギアによる機械的保持 |
電子カウンタ+バッテリー |
自己発電(不揮発メモリ) |
|
バックアップ電池 |
不要 |
必要(定期交換) |
不要(完全レス) |
|
メンテナンス |
ギアの摩耗・グリス劣化に注意 |
電池寿命の管理・交換 |
完全メンテナンスフリー |
|
サイズ |
ギアボックス分、大型になる |
比較的小型 |
極めてコンパクト |
|
耐環境性 |
振動・衝撃でギア破損の恐れ |
温度変化による電池寿命短縮 |
振動・衝撃・温度変化に強い |
|
主なリスク |
物理的な故障、部品点数増 |
電池切れによる位置消失 |
特になし(非接触構造) |
マルチターン(多回転)アブソリュートエンコーダ:方式別比較
|
今回ご紹介する製品(WDGAシリーズ)の |
Wachendorff製品による課題解決の実績
アブソリュートエンコーダの基本を踏まえ、実際の現場でどのような課題がWachendorff(ヴァッヘンドルフ)製品によって解決されているか、3つの代表例を挙げます。
それぞれの解決を支える「磁気式」や「EnDra®」といった独自のテクノロジーについては、事例の後に詳しく解説します。
事例①:屋外クレーン・重機の昇降制御
沿岸部や寒冷地などの過酷な屋外環境において、激しい振動で光学式エンコーダのガラスディスクが割れるトラブルが多発していました。
また、バックアップ用のリチウム電池が冬場の低温で放電してしまい、朝一番の始動時に位置データが消失する事態も発生。そのたびに高所での原点復帰作業を強いられ、稼働率が著しく低下するという課題を抱えていました。
ソリューション:WDGAシリーズ(EnDra®搭載)を採用
効果:磁気式のため振動・衝撃に強く、バッテリーレスのためメンテナンスの死角となる「電池切れ」から解放され、極寒地や酷暑環境でもメンテナンスフリーで長期稼働が可能に。ダウンタイムを劇的に削減します。


事例②:AGV(無人搬送車)の操舵・駆動ユニット
車両の低床化や小型化が進む中で、旋回部(ステアリング)にエンコーダを組み込むスペースが極限まで減少しています。
従来のギア式マルチターンではサイズが大きく、設計を圧迫する要因となっていました。また、複雑なギア駆動部の摩耗による異音やガタつきも、品質面での大きな懸念点となっていました。
ソリューション:超小型WDGA 36mmモデルを採用
効果:ギアレス構造により、世界最小クラスのサイズでマルチターン機能を実現。狭い駆動ユニット内への収まりを劇的に改善し、設計の自由度が上がったことで、車両全体の小型化・高性能化に大きく寄与しました。

事例③:風力発電のピッチ制御(ブレード角度調節)
地上数十メートルのナセル内は、落雷や大型インバータによる強烈な電磁ノイズに晒されています。
万が一、ノイズの影響でエンコーダのデータ化けや片系統の故障が発生すると、巨大なブレードが制御不能となり、重大な設備事故に繋がりかねないため、極めて高い安全基準が求められていました。
ソリューション:冗長性(Redundant)設計のエンコーダを採用
効果:1つのハウジングに2つの独立したセンサ回路を搭載。万が一、片方の系統に異常が発生してももう一方で位置情報の出力を継続でき、システムの安全な停止や継続運転を保証します。高いノイズ耐性と冗長性により、過酷な環境下での安全な稼働を確実なものにしました。

アブソリュート方式を革新するWachendorff独自のコアテクノロジー
上記の事例で挙げた「バッテリーレス」や「小型化」はどのように実現されているのか。Wachendorff社は、従来のロータリーエンコーダが抱えていた「摩耗」と「メンテナンス」の課題を、以下の独自技術で解決しています。
■ QuattroMag® シングルターンテクノロジー
磁気式エンコーダの堅牢性を維持しながら、光学式に匹敵する高精度(最大16bit)を実現する独自の検出技術です。
原理:4素子差動演算アルゴリズム 4つのホール素子を配置し、高度な独自のアルゴリズムで差動演算処理を行います。これにより、軸の偏心誤差や温度変化、さらに外部からの漂遊磁界や電磁ノイズの干渉をリアルタイムで相殺します。
メリット:過酷な環境下での高精度制御 磁気式が得意とする耐環境性(振動・衝撃・防塵)を備えつつ、光学式レベルの精密な角度検出と優れた動的追従性を両立。精密制御が求められる産業ロボットや工作機械の小型モーター等に最適です。


■ バッテリーレス・ギアレス(EnDra®テクノロジー)
従来のアブソリュート・マルチターンエンコーダは、回転数の記録に「機械式ギア」を用いるか、停電時のカウント保持用に「バックアップ用バッテリー」を搭載する必要がありました。しかし、ギアには摩耗やサイズ増大のリスクがあり、バッテリーには定期的なメンテナンスコストが伴います。
原理:ウィーガンド効果によるエネルギー・ハーベスティング 「ウィーガンド・ワイヤ」を採用したエネルギー・ハーベスティング(環境発電)技術を搭載。軸の回転に伴う磁界の変化から、回転数を不揮発性メモリ(FRAM)に記録するために必要な電力を自己生成します。
メリット:完全メンテナンスフリーの実現 バッテリー交換の手間とコストを完全に排除し、ギアレス化によって筐体の小型・軽量化を実現しました。機械的摩耗がないため故障リスクが極めて低く、長寿命化と環境負荷の低減を同時に達成します。
シャフト形状と検出方式の選定
用途に合わせて、物理形状と内部方式を選択する必要があります。
・シャフトタイプ:カップリングを介してモータ等と接続。堅牢性が高く、大きな負荷がかかる用途に適しています。
・中空(ホローシャフト)タイプ:モータ軸に直接差し込んで固定。省スペース化が可能で限られた空間への設置に有利です。取り付け精度を高めやすいのが特徴です。
・光学式 vs 磁気式:
光学式:スリット板を光で読み取ります。高精度だが、塵埃や振動に弱く、 クリーンな環境での使用が推奨されます。
磁気式(Wachendorffの得意分野):非接触の磁気センサを採用しています。オイル、粉塵、衝撃、温度変化に非常に強く、過酷な環境に最適です。
出力インターフェイスと「ユニバーサル産業イーサネット」
Wachendorff社のアブソリュートエンコーダは、多様な通信プロトコルに対応しています。
・対応プロトコル:CANopen, SAE J1939, SSI, EtherCAT, PROFINET, EtherNet/IP, IO-Link。
・ユニバーサル産業イーサネットのメリット:Wachendorffの最新モデルでは、ファームウェアの切り替えにより、1つのハードウェアで「PROFINET」「EtherCAT」「EtherNet/IP」を選択可能です。これにより、顧客(国や機械の仕様)ごとに異なる通信環境に合わせて在庫を分ける必要がなくなり、管理コストの劇的な削減と柔軟な対応を可能にします。
・IO-Linkの活用:シンプルな配線(非シールドケーブル)で双方向通信が可能。パラメータの設定変更や診断データの取得が容易になり、予兆保全(スマートファクトリー化)に貢献します。

他社製品との比較表
|
比較項目 |
一般的な光学式エンコーダ |
一般的なギア式エンコーダ |
Wachendorff WDGAシリーズ |
|
マルチターン方式 |
バッテリーバックアップ |
機械式ギア連結 |
EnDra® (磁気ワイヤ発電) |
|
メンテナンス性 |
2~5年での電池交換が必要 |
ギアの摩耗・定期給脂 |
完全メンテナンスフリー |
|
耐環境性 |
振動・粉塵に弱い |
衝撃にやや弱い |
極めて高い (IP69K対応可) |
|
サイズ |
比較的大きい |
ギアのため奥行きがある |
非常にコンパクト (36mm径~) |
|
通信の柔軟性 |
プロトコル固定 |
プロトコル固定 |
ユニバーサルイーサネット対応 |
Wachendorff 製品仕様・選定ガイド
代表的な5つのシリーズを抜粋しました。
| 技術方式 | WDGA 58B (プロフェッショナル) |
WDGA 36E (コンパクト) |
WDGA 58D (イーサネット) |
WDGA 58F (IO-Link) |
WDGN (NFC設定モデル) |
| 方式 | 磁気式 (QuattroMag) |
磁気式 (QuattroMag) |
磁気式 (QuattroMag) |
磁気式 (QuattroMag) |
磁気式 / インクリメンタル |
| 最大分解能 | 16bit ST / 43bit MT | 14bit ST / 40bit MT | 16bit ST / 43bit MT | 16bit ST / 43bit MT | 設定による |
| NFC設定 | - | - | - | - | 対応 (スマホアプリ可) |
| 出力信号 | CANopen, SSI | CANopen, SSI | PROFINET, EtherCAT | IO-Link | HTL / TTL |
| ハウジング径 | 58 mm | 36 mm | 58 mm | 58 mm | 36 / 58 mm |
| 保護等級 | IP67 | IP67 | IP67 | IP67 / IP69K | IP67 |
| 使用温度範囲 | -40°C 〜 +85°C | -40°C 〜 +85°C | -40°C 〜 +85°C | -40°C 〜 +85°C | -40°C 〜 +85°C |
| 高軸荷重対応 | 220N (径) / 120N (軸) | 80N (径) / 50N (軸) | 220N (径) / 120N (軸) | 最大 500N 対応 | モデルによる |
| 主な用途 | 一般産業機械、 舞台設備 |
AGV、医療機器、 小型モータ |
自動車製造、 高速通信物流 |
予兆保全、 食品機械 |
補修用、 汎用・多品種在庫 |
高耐久な磁気式アブソリュートエンコーダ、WDGAシリーズの選定チャートです。用途に合わせた最適な1台を見つけるガイドとしてご活用ください。

WDGAシリーズ選定表
信頼性・耐久性・精度、そして長期メンテナンスフリー。Wachendorffのアブソリュートエンコーダは、次世代の産業オートメーションに求められる厳しい要件をすべて満たしています。
通信プロトコルの選定から特殊環境での設置まで、エンコーダに関するお悩みはケーメックス・オートメーションにお任せください。
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今回ご紹介した製品の |
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